黄色には真昼の高い位置にある太陽、卵の真ん中に
ある黄身の意味から中心、個人の独立という意味も
あります。欧米では天使の後輪や、中国では皇帝の
象徴、宗教的には聖なる光を表します。そして世界共通
では、希望を表す色とも言われています。
では、ゴッホの黄色は、どんな意味を秘めているの
でしょう? ゴッホは1853年3月にオランダの牧師の
子供として生まれました。彼の生まれる1年前に、
ヴィンセントという名前を持つ兄が亡くなっています。
彼は度々自分と同じ名を持つ兄の墓を訪れたと、
言われています。
自分は何者なのか、他の誰かの場所に自分が存在
している。その誰かの為にも彼は果たさなければ
ならない義務を、感じていたのかもしれません。
弟テオを頼って彼がパリに来た時には、テオの画廊で、
ゴーガン、スーラ、シニャック、ロートレックといった
後期印象派の画家達との出会いがありました。タンギー
爺さんの画材の店では、日本の浮世絵との鮮烈な
出会いも用意されていました。彼の作風はパリでの
3年間で、驚く程変貌を遂げていきました。
やがて彼は「まるで日本のようだ」と評した憧れの地、
明るく太陽が輝くアルルへと移ります。太陽と糸杉と
オリーブの木のある彼の楽園へと。そこで彼が
夢見たのは、芸術家共同体の理想の土地だったの
でしょう。
彼の黄色い家はその象徴ともなる家でした。ゴーガンを
待つゴッホの寝室には、対になる家具がたくさん置かれて
います。ベッドの枕、壁に飾られた絵画、テーブルを囲む
簡素な椅子、その二つの椅子は距離をとって置かれています。まるでその後のゴッホとゴーガンとの関係のように。
彼はこの部屋で、画家としての自分を思い描いていました。
この部屋には希望がたくさん溢れているはずなのに、伝わる
のはゴッホの不安や孤独感ばかりで、見ている者の心を辛く
させてしまうのです。
ゴッホの描いた「椅子とパイプ」、「ゴーガンの椅子」にも
彼の孤独な気持ちが滲み出ています。装飾的な敷物の
上の置かれた「ゴーガンの椅子」。しゃれた肘当てのある
豪華な椅子。椅子の上には灯のついた蝋燭と、閉じられた
本が載っています。椅子の存在は、ゴーガンその人のような
描き方がされています。
「椅子とパイプ」の部屋はむき出しの床、簡素な椅子、火の付いていないパイプ、人の座っていない椅子が、これ程胸に迫る孤独感を感じるのはなぜなのでしょう。人の不在をこんなに不安に感じるのはなぜなのでしょう。
度々のゴーガンとの激しい対立に、ボロボロになりながらも、彼はゴーガンがパリに戻ってしまう事を、恐れていたといいます。また弟テオの結婚により、見捨てられてしまう不安を感じていたといいます。
ゴッホは人と人との絆、友情や愛情を切実に求め続けて来たのかもしれません。家族や兄弟の絆、求めても手に入らなかった大切な人達へのメッセージ。
「自分はここに居る」気付いて欲しいというメッセージ。
ゴッホの黄色は誰か大切な人へのメッセージだったのかも知れません。
参考文献
「心を癒す魔法の色彩力」 末永蒼生 主婦と生活社
ファブリ版 世界の美術 8
「VAN GOGH」 小学館
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